いのちの理由

「学会で報告するために東京へ行ってきていい?
その間、ショートステイでお泊りをお願いしていい?」
そんな私の問いかけに
「すごいことしてるんだねえ。いいよ」
と、父はにこにこしてくれた。

父に応援してもらえて、
私は臨床教育学会で発表することができた。

帰路につく日の前夜
テレビは衆議院選挙の結果速報と台風情報。
希望の党発足、民進党の解散、立憲民主党の誕生
選挙の争点は・・・
大型台風は勢力を保ち・・・
JR〇〇線の運休は明日の午前中まで・・・

そして帰路の朝、
交通機関の再開と共に行動開始。
乱れたダイヤを乗り継いで移動。
新幹線グリーン車の座席指定券を購入。
新横浜のホームで待つこと40分。
私の座る席を用意した新幹線が到着。

私は窓側の席。その通路側にはもうすでに
‛ちょっと派手めなシャツのおじさん’が。
品川もしくは東京から乗車してきたのだろう。
とりあえず、指定された座席に座った。

でも、なんだか落ち着かないので、
私は立ち上がって車両全体を見渡した。
窓側と通路側の両方が空いてる席があったら
移動しようと思ったのだ。
しかし、通路の向こう側の席に居るお仲間らしき人が
‛派手めなシャツ’のテーブルを開き弁当を置いてしまった。

ああ、これで私は当分動けない。
そんな怪訝そうな様子を察知したのか
‛派手めなシャツ’は「電車、遅れてるみたいですよ」と。

私は「そうですね」と答えて窓に目をやった。

通路の向こう側の席に居る人と話す‛派手めなシャツ’
その声・・・もしや!!まさか!!
私は窓から目を離し、‛派手めなシャツ’の横顔を確認し、
瞬時に「芸能界の方ですか?」と、発声していた。
「はい」と‛派手めなシャツ’。
「‛さださん’ですよね」「高校生の時にコンサート行きました」
「写真、撮っていいですか?」
今思えば、このとき私の思考は全く動いていなかった。
‛さださん’は、「ちょっと今はヨレヨレなので、写真はちょっと」と。
「ああ、そうですね。すみません」と、私。
再び窓に目をやり、そっとしておくことにした。

‛さださん’は、かつ丼弁当を半分ほど食べ、
「身体に悪い物って美味しいですね」と、ひとり言。
それを聞いて私はクスッと。
その後、‛さださん’と乱れたダイヤの話しをした。

‛さださん’は、テーブルを片付けて足下に置いてあるカバンの中を
ごそごそと探り、メガネケースを取り出して眼鏡をかけた。
すると正真正銘の‛さだまさしさん’になった。
そしてその、‛さだまさしさん’は「カメラ持ってますか?」と聞いてくれた。

振り返って、時間が経てばたつほど、不思議が増してくる。
ようやくあの偶然の不思議に包まれた妙な感覚を自覚できてきた。

‛さださん’の隣に座ってた、あの不思議から1日経った。
‛さだまさしさん’の詩に私は救われ、支えられていたことを
しみじみと思い出した。

このタイミングで会えるだなんて、この偶然はスゴイ!
多分偶然なんだけど、私にとって、今で良かった。
今しかない最良のタイミング。

子どもの頃から「死」を身近に感じてて、
「防人の詩」に救われたなあ。
つらくて、つらくて逃げ出したいと思ったときも、
あの詩で「いつかは終わりが来るから大丈夫だ」
と、そこに居られた。
おばあちゃんが死んだときも、あの詩が脳裏をかけめぐった。
乳癌になった時、これでようやく「死」について語れる
って、思ったけど、やっぱりそこは、難しい。
そんなときも「防人の詩」が私の脳裏で流れてる。

誰もがみんな主人公だと
そんな言葉も、自分で思い付いたような気がしてたけど
違うなあ、あの言葉が私を創っていったんだ。

ずっと私は、誰にも共感されず孤独だったと思ってた。
いや、いや、ちがうよ。
‛さだまさしさん’の詩が補償してくれてたんだね。

高校の頃の自分に会えるなら伝えてあげたい。
・・・・・
うまくいくよって、言い切れないし、
良いコトもいっぱいあるよ、とも言えないけど。
でも、だいじょうぶ。心配しなくていいよ。
・・・・・

カラスは黒ですか?と、一人で泣いてた
あの高校生、いまはこんな私になりました。

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